東京高等裁判所 昭和28年(ネ)815号 判決
別紙目録(省略)記載の土地がもと被控訴人笹崎の所有であつたところ控訴人の主張の経緯で被控訴人滝口の所有となつたが登記は未了のままとなつていたことは本件当事者間に争がなく、被控訴人滝口が昭和二十四年二月三日これを控訴人に対して代金三万七千円で譲渡したこと、右土地の登記については被控訴人滝口のための所有権移転登記がなされていなかつたため控訴人に対してもその移転登記がなされなかつたことは原判決の理由に説明するとおり、これを認定し得るから、この点に関する原判決の理由を引用する。しかるにその後被控訴人滝口は右土地を訴外滝口義博に譲渡したものとして、昭和二十七年七月二十三日被控訴人両名及び右義博合意の上中間登記を省略して被控訴人笹崎から義博に対する所有権移転登記がなされたことは当事者間に争ないところである。しかして原審における証人笹崎懐作同滝口義博の各証言及び原審における被控訴人滝口俊夫本人尋問の結果をあわせると被控訴人滝口は右控訴人に対する本件売買のはるか以前本件土地をその養子である滝口義博に贈与してあつたもので、右登記は真実の譲渡にもとずくものであることを認めることができる。従つて控訴人は右滝口義博が任意自己のための登記を抹消する等特段の事情のない限り、被控訴人滝口から本件土地の所有権移転登記を得て右土地の取得を第三者に対抗することは、もはやできないこととなつたもの、すなわち完全な所有権を取得し得なくなつたものといわなければならない。
控訴人はこれは被控訴人ら両名及び右義博が共謀して故意に控訴人の権利を侵害したものであると主張する。よつて按ずるに、前記登記にあたつて被控訴人滝口が控訴人の本件土地買受の事実従つて控訴人の権利を害すべきことを知つていたことは前記事実関係からおのずから推認し得べきところであり、これをくつがえすべき特段の事情は認め難い。しからば被控訴人はすでに養子義博に譲渡してあつた本件土地を控訴人に売渡し、控訴人に対して所有権移転登記義務あるにかかわらず右移転登記を不可能ならしめ、もつて控訴人をしてその完全な所有権取得を妨げその権利を害したものというべきであるから、これによつて生じた損害を賠償すべき義務があるといわなければならない。しかして当審における鑑定人鈴木美好の鑑定の結果によれば本件土地の右不法行為の当時である昭和二十七年七月頃の価額は少くとも金二十万円を下らないことが推認せられるから、控訴人は被控訴人滝口の行為によつて当時同額の損害をこうむつたものというべく、控訴人が被控訴人滝口に対し右金二十万円及びこれに対する右不法行為の日の翌日である昭和二十七年七月二十四日から支払ずみまで年五分の遅延損害金の支払を求める請求部分は正当として認容すべきものである。控訴人は右遅延損害金計算の起算日として昭和二十七年七月二十三日を主張するけれども、この日は右不法行為のなされた日であつて失当であることは明白であるから、この部分の請求は理由のないものとして棄却すべきものである。
次に控訴人の被控訴人笹崎に対する請求について検討するに、被控訴人笹崎としては被控訴人滝口との本件土地交換の当事者として本来被控訴人滝口に対しその所有権移転登記表手続をなすべき法律上の義務を負うものであり、それについて当事者合意の上中間登記を省略して右義博に直接移転登記をすることは、右義博が真に被控訴人滝口からさらに所有権を取得したこと前記認定のとおりである以上、その本来負担する登記義務の履行として許されるところであるから、それ自体正当の行為というべきである。従つて右登記にあたり控訴人の本件土地買受の事実について控訴人の権利を害する事実を知つており、又は被控訴人滝口と共謀した事実があつたとしても、これをもつて控訴人に対し不法行為の責任を負うべき筋合はない。故に被控訴人笹崎に対する控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものである。